「……で、何で江戸に来たんですか?」
「だから、しろボンが正月をここで過ごすためだよ」
尋ねてくる総輝に、くろボンが淡々と答えた。
総輝はため息をつき、正月なんてどこでも過ごせるじゃないか、と言った。
「それは俺も同意見だ。だがな、しろボンが“こっちの方が雰囲気が出るから”って言ってな……。あいつを止めるには、相当骨が折れる……、俺じゃ無理だった」
「なるほど……」
事情を聞くと、総輝は納得する。
「で、タイムマシンで来た訳か。お宅ら暇だね」
「そう言うお前も、充分暇そうだが?」
「……まあね。正月なんて、仕事も何にも無いし、寝て過ごすくらいだよ」
「しろボンがいれば、寝てるなんてことできないだろうがな」
くろボンは今まで散々しろボンに振り回されてきたため、彼のことをよく知っている。
総輝も彼の意見に納得したのか、小さく頷いた。
「……ところで、しろボンはどこに?」
ふとしろボンがいないことに気付いた総輝は、辺りを見回す。
「あいつなら、とっくに清撰組の屯所に行ったぜ」
「わあ、行動が早いことで。ま、俺が土方さんに言う手間が省けて嬉しいけど」
と言うが、実際の総輝は無表情で、嬉しいなんて思っていそうには無かった。
「…っていうかさ、こんな気軽に過去に来ていいわけ?」
「多少のことならいいんじゃないか? 過去で、あまりにもでかいことをやるのはまずいけど」
「……ふうん」
自分から聞いたにも関わらず、素っ気なく言う総輝に、くろボンはわずかな苛立ちを覚えるが、すぐに消えた。
「ーーーでも、正月に江戸に来たのは正解だったね。屋台が出るし、花火もある。もちろん、初詣だってできる。僕はほとんど寝て過ごすことしかしないけど、他の人達は結構楽しんでるみたいだよ」
先程の素っ気なさとは逆に、今度は笑顔で明るく言った。
清撰組の屯所ーーー。
「……わかった。良いだろう」
「本当ですか!?」
しろボンの話を聞き、土方は正月は江戸で過ごすことを許可した。
「ただし、事件は起こすなよ。新年早々に駆り出されるのは、嫌だからな」
「もちろん!」
しろボンは目を輝かせ、笑顔で言う。
「部屋は、以前来た時と同じ場所を使ってくれ」
そう言うと、土方は立ち上がって屯所を出て行こうとした。
どこに行くんですか、としろボンが問うと、
「巡回だ」
と答える。
しろボンは彼の背中に向かって、ありがとう、と小声で言った。
元旦の0時ーーー。
「わあ、屋台いっぱいだね!」
神社に初詣に行く最中、江戸のあちこちに屋台が出ていた。
それを見て、しろボンが感動する。
「初詣が先だからな」
今にも先に屋台で何か買って食べてしまいそうなしろボンに、注意するかのようにくろボンが言う。
わかってる、としろボンは明るい表情で言った。
「やれやれ、食べ物を見るとすぐ明るくなる」
くろボンが頭を掻きながら言った。
それを聞いた土方が、
「別に悪いことじゃねえよ」
と小さく笑いながら言う。
どうやら、しろボンの子供っぽさと純粋さが気に入ったらしい。
そして、彼が笑っていることに気付いた斉藤が次に言う。
「土方さんが笑うなんて、珍しいですね。久々に見ました」
「そうか?」
斉藤の発言に、少し首をかしげる土方。
「そうですよ。普段は沖田くんにからかわれて、怒ってばっかりじゃないですか」
「……………」
彼の言葉を否定できず黙っている土方を見て、くろボンは笑いを抑えていた。
「一鋭くん!」
笑顔でこちらに向かって手を振っている少女がいた。
「み、澪!?」
澪という少女を見ると、土方が驚く。
澪は土方の方に歩み寄って来た。
「もしかして、みんなで初詣に行くの?」
「あ、ああ、そうだが……」
「…あの、私も一緒に行っていいかな?」
「え? お前も……か?」
彼女の言葉に戸惑う土方。
何も言葉を発せずにいる彼の代わりに、斉藤が答える。
「もちろんですよ。大勢でいた方が、楽しいですしね」
「本当に? よかった。ありがとうございます!」
嬉しそうにする笑みを浮かべる澪に、斉藤も笑顔で接した。
「副長、川井さんに惚れてるから、あんな態度なんでしょうか?」
ふと疑問に思ったことを、くろボンに聞く総輝。
しかし、くろボンは恋愛に関してはまったく分からないため、
「……さあ?」
と言った。
「あ、そうそう。林音ちゃんも一緒なんだけど、いいかな?」
「り、林音も!?」
林音という名前に敏感に反応したのは、総輝だった。
「……もしかして、だめかな?」
「い、いや、そうじゃないんだけど……。川井さんが、林音と一緒に行動してるなんて、珍しいと思ったから」
「え? そうでもないよ。最近はよく、一緒に遊んだりしてるし」
澪と林音は、清撰組の屯所で知り合い、今では仲良しだった。
「でも、僕はそういうの、あんまり見たことがなくて……。っていうか、林音、今いるの?」
「うん。えっと……ほら、あそこ!」
澪が少し遠くを指差すと、総輝はじっとそちらの方を見て、林音を探す。
そして何度か見たことのある茶髪の少女を見ると、林音だ…、と呟く。
「林音ちゃん! こっちこっち!」
大声で言うと、林音が急いでこちらに向かってくる。
「澪ちゃん、探したんですよ!」
「ごめんね」
走ってきたせいか、息切れをしている林音。
申し訳無さそうな表情で、澪は謝る。
「あ……、総輝くん」
総輝がいることにようやく気付いた林音は、彼の方を見る。
「どうも」
小声で挨拶する総輝。
「こんばんは! …あ、あの、一緒に行ってもいいかな?」
「…僕は良いけど、他の人は?」
「僕も全然構いませんよ!」
「ボクも!」
「好きにしていいぜ」
総輝の問いに、斉藤、しろボン、くろボンの順番で言う。
一方土方は、先程と同じく黙ったままだったが、小さく頷く。
「あ、ありがとうございます!」
嬉しそうに笑みを浮かべ、明るい声でお礼を言う林音。
「みんな、早く行こう!」
いつの間にか結構先に進んでいたしろボンが、後ろに振り返って言った。
やっぱり子供っぽいなあ、と思いながらもくろボンは笑みを浮かべてついていく。
それは、彼を慕っているから。
「うわー、人がいっぱい!」
神社はとてつもなく混んでいた。
かなり後ろの方から並び、何十分待ちになるかわからないほど。
江戸は大きいから仕方無いよ、と苦笑しながら総輝が言った。
みんなでいろいろなことを話したりして、あっという間に四十分が経つ。
その時には、もうしろボン達の前に人はほとんどいなかった。代わりに、後ろの方に人が大勢いる。
ようやく順番が回ってきて、お参りができた。
それを終えると、お守りを買い、そしてしろボンは屋台の方へ早速向かう。それを追うようにしてついていくくろボン。
土方や沖田達は、その光景を見て笑みを浮かべると、自分達も屋台がある方へと向かった。
こうして、一月三日まで、しろボン達は楽しく正月を過ごすことができた。
初詣をして、屋台で買って食べ、花火を見て、羽根つきをしたりーーー。
「来年も、また江戸に行こうよ」
彼は笑顔でそう言うが、くろボンは首を横に振り否定する。
「いや、それは再来年とかにしようぜ。たまにはーーーボンバー星に行くのも、良いだろ?」
くろボンの言葉を聞くと、しろボンは首を縦に振り納得する。
「そうだね! 来年の正月は、ボンバー星で過ごそう! ーー土方さん達も連れてきてさ!」
江戸でのお礼をするために。